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彼女はひた走る。
草原の丈夫な草が裸足を傷つけ、森の木の枝が絶えずその身を刺す。
泥にまみれた身体はもうボロボロだ。
もうどれだけ、走り続けているだろうか。
心臓が爆発する。呼吸を繰り返す肺が引き攣れる。
限界など、とっくの昔に振り切っていた。
だが、何としても、ここで力尽きるわけにはいかない。
一瞬――ほんの一瞬だけ。
誘惑に負けて後ろを振り返り、彼女は即座に後悔した。
幾筋も天へ立ち上る、灰色の煙。
彼女の国が滅び行く烽火。
愛する故郷が、天へ消えてゆく――
世界一を誇った美しい町並み、生まれ育った思い出深い城は、どんな姿になっているのか。
今は考えない。
彼女は前を向いて、また走る。
町も、城も、人々も、記憶も心も思い出も。
今は全てを置き去りにして。
涙を流せない己が身が恨めしい。
でも、泣いている場合ではないので、それはそれで良いことなのだろう。
自嘲の笑みを浮かべようとしたが、笑うことすら出来なかった。
民を守れなかった王族の罪。
無力な敗走者への罰。
けれど、いつか自分は必ず、この地へ戻ってくる。
この身に流れる勇者の血と誇りに誓って。
彼女は、走る。
どんなに惨めな姿になっても、
どんなに屈辱にまみれようとも。
彼女は、生きる。
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